地上高5mの巨大ウサギ

    ブナ林でのキノコ探索は、地面を注視する通常のキノコ採りとは異なり、木々を見上げて歩くことが多くなる。この日もツキヨタケをはじめ、ヌメリツバタケブナハリタケなど様々な菌が巨木や立ち枯れ木などに姿を見せていた。
    ふとブナの大樹を仰ぎ見ると、地上から5mくらいのところに白く大きな塊が飛び出しているのが見て取れた。その大きさから、はじめはサンゴハリタケかと思ったのだが、よく見ると白い針が垂直に垂れ下がっているのがわかった。ヤマブシタケ、別名ウサギ茸だ。マイタケが採れる広葉樹の山で見かけるヤマブシタケは野球ボールからソフトボール大のものが普通で、こんなにバカでかい個体は見たことがない。ぜひとも手にとって間近で見たいものだ。しかし、いかんせん、その発生場所が地上から高すぎて手が届かない・・・。
    同行者とともに行動を開始した。周囲に転がっていた全長3mほどの丸太状の倒木を抱え上げ、樹上のターゲットに向けて突き上げる・・・長さがあと50cmほど足りない。エイヤッ!かなりの重量がある丸太を垂直に投げあげてみるが、なかなかうまく当たらない。ズドン!数度目のトライで、見事ヒットする。白い大きな塊がドサリと地上に落ちてきた。落下の衝撃で大きな白ウサギは砕け散り、いくつかの破片に分かれてしまったが、悪戦苦闘の末、雨を吸ってずっしりと重い巨大な塊を手にすることができた。全体では径25cmはあったであろう、おばけヤマブシタケだ。腕の中で強い菌臭を放っている。
    かつては「幻のキノコ」とされていたヤマブシタケではあるが、最近では当たり前のように栽培モノがスーパーの店頭に並ぶ。しかし、この大きさは天然モノならではの迫力だろう。最近の健康食ブームに乗って流れてくる噂によると、ヤマブシタケは「ボケ」に効くらしい。こんな天然ヤマブシタケを食らえば、自分のひどい物忘れも治るかもしれない。


    2016/10/12 (富士山) ※地上から5mくらいのところに見える白い塊


    ※これが一つの塊を形成していた


    ※地上に落ちて割れた後の一塊でもこのサイズ

    垂直に美しく垂れさがる針

    マイタケの出る山で見かけたヤマブシタケ。白い針で構成されるキノコには他にサンゴハリタケなどがあるが、ヤマブシタケの美しさは、その針の「垂直ぐあい」だと思う。倒木に張りついた塊から、針が縒れることなくスウッと垂れさがって延びている。


    2013/10/12 (山梨県)

    ついこないだまでは幻のキノコ

    このキノコが初めてスーパーマーケットの店頭に並んだのは、何年ほど前だったろうか。その頃の私は、まだキノコの世界に足を踏み入れる前で、このキノコが栽培できることに「驚き」を感じることはなかったのだが、もともと、食材としてのキノコには人一倍関心が高く、すぐにその「ヤマブシタケ」という聞き慣れない栽培キノコを購入して食してみた記憶がある。
    中国では古来から熊の手、フカヒレ、ナマコとともに四大珍味とされてきたらしく、また日本でも人工栽培に成功するまでは「幻のキノコ」という扱いだったようだ。この「幻の」などという言葉には眉唾ものが多いので、すべてを真に受けると世の中「幻」だらけになってしまいそうだが、私も今回初めて出会ったばかりなので実際のヤマブシタケの珍しさがどの程度なのかはピンと来ない。あの南方熊楠も「ヤマブシタケは幻のキノコである」と書いているらしく、まあ、そこそこ珍しいものなのだろう。
    山伏の袈裟についている丸い飾り(「梵天」というらしい)に形が似ているからヤマブシタケ。その長い針を垂れ下がらせる形が典型だが、朽木の水平上部などに発生したものは毛をはやした小動物のようだ。「ハリセンボン」「ウサギタケ」などの別名がつけられているのも納得。他に「ジョウゴタケ」という異名があるが、その由来が面白い。乾燥させたヤマブシタケは水分をたくさん吸収できるようになる。むかし、酒を飲めない人が酒宴に呼ばれた際、干したヤマブシタケに酒をしみ込ませ、飲んだフリをして凌いだという。酒をたくさん飲める=上戸(じょうご)という意味から、ジョウゴタケとなったそうだ。
    料理に出せば、まず見た目の不思議さで眼を引きつける。苦みにつながるような旨味があり、お吸い物の実などにすると美味しい。


    2010/11/11 (山梨県) ※重力によって針が垂れ下がる典型タイプ。


    2010/11/11 (山梨県) ※この個体は朽木の空洞の中に発生していた。
    Eat-a Fungi.
    東京在住。キノコ中級者。いちばん好きなキノコはチャナメツムタケ。自由業。

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    *このブログ中でのキノコの同定には間違いがある可能性もあります。天然キノコを食される場合にはご自身の責任においてご判断ください。 *福島第一原子力発電所事故の影響により富士山をはじめとする各地で天然キノコの採取に対する自粛の要請が自治体から出されています。このサイトは皆さまに各地での天然キノコ採取を薦める主旨のものではありません。くれぐれも、各自、自己責任でのご判断を願います。