むかし優良食菌、いま???

    キノコの食毒の評価は、時代の遷移によって変わる。昔は「食べられる」「美味しい」とされていた菌でも、その後に「有毒種」「要注意菌」とされることはよくある。「そのキノコが原因と思われる中毒の事例が発生した」「研究の結果、毒性分が見つかった」などが、その変化のきっかけになる。
    食毒の評価が大きく変わったキノコの代表格が、上の写真に挙げたスギヒラタケだろう。いまの時期、あちこちの倒木上に群生している、真っ白でキレイなキノコだ。キノコの発生が少ないスギ林の中で見つけられる優良な食菌として昔から親しまれていたが、2004年に腎臓疾患のある人がこのキノコを食べて死亡したため、一気に「要注意菌」として格下げされてしまった。しかし、その事例の中毒の原因が明確に特定されていないようで、いまでも普通に食べてる人は多いと思われる。キノコを鑑定してくれる場所でも、「腎臓の病気ある?」と確認されるくらいで、それほど厳しく「食べるな」とは言われない。それもこれも「だって、自分は何十年も食べてきて問題ないから」という実際の経験からきている判断なのだろう。
    もう一つは、スギヒラタケの白に対してというわけでもないが、ウラグロニガイグチ。紫がかった焦げ茶色の中型~大型イグチで、肉が緻密に締まった美味しいキノコだ。リゾットなどにすると米にもその黒みが移り、イカスミリゾットか?と思われるような見映えになる。その旨み、採った時の重量感など、個人的にはヤマドリタケに準じるような優良イグチだと思っているのだが、このキノコも最近では「有毒種」扱いのようだ。体質によっては、ひどい腹痛に襲われるらしい。私は何度も食べているが、一度も「あたった」ことはない。
    キノコというのは、食べる人の体質はもちろん、採れる環境の変異などによっても「あたる」「あたらない」に違いが出るらしい。たとえば、温暖化がさらに進み、毎年のように猛暑が続いていくと、何年か後には「マツタケは有毒種」なんてことになることもあるのだろうか。


    2010/9/29 (富士山)


    2010/9/24 (富士山)

    雨後のおばけキノコ

    富士山では、キノコシーズンも後半戦に入っている。標高の高いところでは前半戦が一段落して、晩秋のキノコの出を待つという感じになっているが、この端境期には、人間に見つけられることなく密かに大きく成長したキノコを見ることができる。
    ここ数日続いていた雨がやんだ晴れ間にコメツガの森に入ってみると、バサくれて場腐れしてしまったカサの径が20cm近くもあるオバケのようなキノコが目に入った。雨に打たれて色も抜け、全体が白っぽくなっているが、中央部だけには独特の模様が残っている。もしやと思い鼻を近づけてみると、ちゃんとマツタケ臭がする。カサはすでにグジュグジュになっていたが、地中に埋まっている柄(これも20cm近くあった)は虫も入らずに意外としっかりしていた。「腐ってもマツタケ」というところか。
    中段の写真は、カサの径が10~15cmほどの黒いキノコが寄り添った株立ち。カサに粘性はなく、柄は中実(下段写真)。しかし、全体的に吸水性が強く、柔らかい。カサの波打ち方などが以前見たことのあるスミゾメシメジに似ているが、黒変性も見られず、根本の菌糸毛もない(雨で濡れて見えにくくなっていたのかも知れないが)。そもそも、全体的に華奢で弱々しいイメージがあるスミゾメシメジとは違って、ドッシリと重量感がある。結局、私の知識では「不明種」で終わってしまった。どなたかおわかりになる方がいれば、ご教授ください。
    明日からは、もう10月だ。マツタケもそろそろ下に降りてくるだろうし、これからは広葉樹の山が面白くなるだろう。自分の頭の中も、すでに晩秋モードに切り替わっている。


    2010/9/29 (富士山) ※成長しきったマツタケ


    2010/9/29 (富士山) ※種類を同定できなかった不明菌。


    2010/9/29 (富士山) ※上の写真と同じ個体の裏側。

    酒にめっぽう弱いお猪口

    このキノコ、富士山では普通に見られる。美味しいらしい。しかし、いまだに私は食べたことがない。名前をホテイシメジという。酒を飲むお猪口に似ているのでチョコダケという地方名もある。
    以前に取り上げたキララタケのところでも書いたが、このキノコは酒と一緒に摂取すると悪酔いしてしまう禁酒菌の一つだ。人の体内にあるアルコール分解酵素の作用を、阻害する成分が含まれているらしい。単に酒と一緒に食べなければ大丈夫なのであれば、飲んべえでもない私などは問題ないのであるが、その阻害効果は食べたあと一週間以上も持続するという。一週間もあれば、ホテイシメジを食べたことなど忘れて付き合いでちょっと一杯、などということもありそうで怖い。
    ホテイシメジの効果については、天谷これの「毒キノコが笑ってる」という本の中でも紹介されているが、その話の中で「欺されて食わされた友人」というのが、じつは私の子供時代からの友人なのだ。彼に聞いたところによると、ビール一杯で足の裏まで真っ赤になり、頭がガンガンと痛くなって眠ってしまったそうだ。しかも、その「効果」は、一週間どころか一ヶ月近く持続したと彼は言う。まあ、ひどい仕打ちにあったものである。人によって効き方に差はあるのだろうが、身近に被害者がいただけに、私はいまだにホテイシメジに手が出せないでいる。いずれは、一ヶ月ほどの禁酒を肝に銘じた上でホテイシメジの旨みを味わってみたいとは思っているのだが。


    2010/9/24 (富士山)


    2010/9/24 (富士山)

    水に浸けると溶け出してしまうほどに弱いキノコ

    ヌメリツバタケモドキである。この個体はヒダが意外としっかりとしている方で、通常は、ヒダがうねうねと波打っている。ヒダが真っ直ぐなのはヌメリツバタケの方だ。どちらの種類も、今までは単体レベルでしか出会うことがなく、ちゃんと食したことはなかったのだが、今回はヌメリツバタケモドキのそこそこの群生に出会ったので採取して食べてみた。
    虫出しのために水に浸けておいたところ、水自体が白く濁りはじめた。よく見てみると、キノコのカサの部分が透明に透けはじめている。どうやら、長い間浸けておくとカサの白い成分が水に流れてしまうようだ。硬めの柄は外し、弱々しいカサだけを味噌汁の具として入れてみた。汁の中で、溶けた餅のような、もしくは白いクラゲが浮いているような見映え。カサにはヌメリがあるが、柄の付け根以外には「歯ごたえ」が全くなく、汁をふんだんに吸い込んで「ヒュルッ」「ジュルッ」と口の中に滑り込んでくる。味も香りも、ほぼクセがない。食感だけのキノコということになるが、これはこれで美味いと思う。その「か弱さ」を考えると、お吸い物やコンソメなどのスープに入れると合いそうなキノコだ。


    2010/9/26 (山梨県)


    2010/9/26 (山梨県)

    ボリボリ以上のボリボリ

    富士山にはこのキノコがところかまわず生えている。オオキツネタケ。このキノコはアンモニア菌という種類で、動物の排泄物や死体分解の跡に発生する。カサの中央部が陥没しているのが特徴か。これでも立派な食菌である。
    食材としての印象は、とにかく柄が硬い。ナラタケはその柄の硬さからボリボリの異名を取るが、オオキツネタケの柄はナラタケなど相手にならぬほどに硬い。ちょうどゴボウのような、と言えばわかりやすいだろうか。まさにボリボリである。とはいえ、食べられないほどの硬さではないので、調理次第ではもっと美味しく食べられるのかも知れない。いまふと思いついたが、ゴボウの代わりにキンピラなどにしたら酒のつまみにはいいのではないか。ただし、歯の丈夫な人向けではあるが。
    人によっては、動物の排泄物や死体跡から生えるキノコなど食べたくないと言うかも知れない。しかし、そんなことを言うのであれば、動物たちが跋扈している森の中で採れる天然の食材などは、すべて口にできるものではないだろう。


    2010/9/24 (富士山)


    2010/9/24 (富士山)

    倒木の幼菌たち

    雨もたくさん降り、気温も下がってきたので、今まで行ったことのない広葉樹林を歩いてきた。先日の台風から10日ほどしか経っておらず、やっとその結果が出始めたばかりという様子で、倒木にはいろいろなキノコの幼菌たちが姿を現しはじめていた。
    サンゴハリタケは成長すると一つの大きな塊に見えるが、幼菌の頃にはまだ「枝」の部分が伸びていく様子がわかる。この大きさでも、すでにコリコリとした歯ごたえを備えている。ここは広葉樹林だったのでサンゴハリタケで間違いないと思うが、針葉樹に出でるタイプはサンゴハリタケモドキとされ、枝の分岐が少なめで針は長めに伸びる。そして、ブナと思われる倒木に出ていたのがツキヨタケだ。成菌ではその大きなカサが存在感を主張するが、幼菌の頃には団子状の柄とその上をリングのように取り巻くツバが目立ち、なんとも可愛らしい姿になる。秋も深まり、ブナの立ち枯れ木をツキヨタケの成菌が覆い尽くす光景は見ものだ。3つ目の写真は、最初、その色からムキタケかと思ったのだが、カサの表面や柄の様子からすると、どうやらヒラタケのようだ。私はウスヒラタケにはよく出会うのだが、大きなヒラタケにはまだ出会ったことがない。里山でもよく見られるというので、これからのシーズン、注意深く探してみようと思う。
    コウタケが出るという広葉樹の山にも立ち寄ってみたが、山に入っていた地元の人に聞いても「まったく出てない」ということだった。一方で、富士山は少し復調の兆しが見られるという。下界も本格的な秋を迎えるこれからの時期、どこに足を運ぼうか迷いどころだ。


    2010/9/26 (山梨県)


    2010/9/26 (山梨県)


    2010/9/26 (山梨県)

    逞しさナンバー1

    凛々しさ、美しさという意味では、純白のドクツルタケにその座を譲るが、逞しさでは一番かも知れない。ミヤマタマゴタケドクツルタケのカサを薄茶色にして、全体を太く頑丈にした感じのキノコだ。以前はミヤマタマゴテングタケミヤマドクツルタケなどと呼ばれていたこともあったが、現在ではミヤマタマゴタケが標準和名となっている。
    大きなツバ、ササクレのある柄、ハッキリとしたツボ、写真には写りにくいがカサの周辺にある条線など、まるでキノコの特徴を説明するための標本のような菌だ。ササクレのない個体もあるようで、また、ここに挙げた写真の成菌は雨の後でツボが柄にへばりついてわかりにくくなっている。大きい個体では高さが40cmになるものもあるらしく、とにかく森の中での存在感はピカ一だ。食毒不明とも猛毒とも言われているが、まあ見るだけに留めておいた方がよいだろう。


    2010/9/24 (富士山)


    2010/9/19 (富士山)
    Eat-a Fungi.
    東京在住。キノコ中級者。いちばん好きなキノコはチャナメツムタケ。自由業。

    Eat-a Fungi

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    *このブログ中でのキノコの同定には間違いがある可能性もあります。天然キノコを食される場合にはご自身の責任においてご判断ください。 *福島第一原子力発電所事故の影響により富士山をはじめとする各地で天然キノコの採取に対する自粛の要請が自治体から出されています。このサイトは皆さまに各地での天然キノコ採取を薦める主旨のものではありません。くれぐれも、各自、自己責任でのご判断を願います。