このキノコとともに秋は過ぎ去ってゆく

    8月中から頻繁に山に通いつづけてキノコを見ていると、季節が移ろいゆくのを敏感に感じ取ることができる。下界では、紅葉が始まる今頃からが「秋本番」という印象だろうが、山の中では、すでに冬が近づいてきている。
    黄色くて小さなキヌメリガサは、秋の終わりを告げるキノコだ。このキノコが出始めると、キノコ師たちは「ああ、もう今シーズンも終わりか」と、3ヵ月近く続いた狂騒の季節を振り返り、少し切なく寂しい気持ちにもなりながら森の中を歩くことになる。カラマツ林を中心に、たくさん発生するキノコだが、小さくてヌメリが強く、採るのに根気がいるので「コンキタケ」とも。珍しい存在でもなく、いくらでも採れる。その上、処理も面倒だからか、このキノコを軽んじる人もいるが、かなり優秀な食菌だと思う。小さくても主張は強く、ナメコのようなヌメリと土臭さを備えた日本人好みのキノコだ。
    これから出てくるナメコエノキタケなどの冬キノコもあるが、気温を一気に下げる山々は冬景色へと姿を変え、人間の侵入を拒むようになる。今シーズンの恵みに感謝をし、また、来シーズンの豊作を願い、寒風の中、キノコ師たちは山の神々に挨拶をしながらキヌメリガサの黄色を辿ってゆく。


    2010/10/27 (富士山)


    2010/10/27 (富士山)

    ちっちゃいからと言って侮るなかれ

    見た目が立派で量もたくさん採れるメジャーなキノコの存在の陰で、「でも、じつは、こっちの方が美味なんだけどねえ」と囁いている小型の近似種というのがある。ムラサキシメジに対してのコムラサキシメジ、そしてサクラシメジに対してのヒメサクラシメジがその口だ。
    大きくて立派なサクラシメジサクラシメジモドキはキノコ狩りの対象として人気があるが、「苦味」という弱点を抱えている。しかし、収穫量が期待できるのと、湯がけば苦味も和らぎ歯ごたえの良さは残るので、優良菌としてのポジションを保っているというところか。一方で、このヒメサクラシメジは、カサの径が1~3cmほどの小さくて地味なキノコで、普段から意識を向けていないこともあってか、あまり見かけない菌だ。しかし、苦味などのクセがなく、サクラシメジよりも美味しいと聞く。私も、今回、大きなモミの樹の下に20個ほどが発生しているのをはじめて見つけた。初のトライなので、味の濃くない茶碗蒸しの具にして食べてみたが、心地よいヌメリ、小さいながらシッカリとした歯ごたえ、そしてほのかに甘い香りがある。なるほど、食材としてはなかなか優秀な菌ではないだろうか。
    梅雨時期あたりから発生するというコムラサキシメジは、ヒメサクラシメジよりは名前を聞くキノコだが、発生場所が山や森の中ではなく、畑や芝生など人家に近いところであるということもあり、逆に、私は見たことがない。埃臭さが気になるムラサキシメジよりも、よっぽど美味いキノコだそうだ。


    2010/10/27 (富士山) ※全体に「サクラ色」を凝縮したような見映え。


    2010/10/27 (富士山) ※ヒダも柄もサクラ色。

    濡れててもギュッと絞れるキノコ

    今の時期のブナ林に入ると、必ずと言っていいほどこのキノコが倒木や立ち枯れ木をびっしりと覆っている。ブナハリタケ。けっこう肉厚なキノコで、雨などが降ると水分をたっぷりと吸い込んでしまうが、それを手にとってギュッと強く絞っても、カサ裏の針も抜けず、形が崩れたりしない。同じようにカサの裏に針を付けるキノコでも、カノシタなどの脆さとは真逆にあるような強靱さだ。調理例として炊き込みご飯がよく取りあげられるが、大きく成長した個体を使うと、細かく刻んであっても噛みきれないくらいに強いので、かえってご飯の中で邪魔な存在になってしまう。
    ブナハリタケを語る時に外せないのが「匂い」というポイントだろう。「アニス臭」とも「キンモクセイのような」とも言われる甘い香りは、乾燥するほど強くなる。採取したての時にはあまり感じなくても、カゴに入れて山の中を歩いているうちにプンプンと匂いが強くなってくる。こんな甘い匂いのする炊き込みご飯なんていかがなものだろうと訝ってしまうが、実際には、湯がいたあとでご飯と一緒に炊いてしまうとソフトなキノコらしい匂いに変わる。よく「マツタケご飯に似た香り」と言われるのだが、う~ん、単に「キノコらしい香り」ってとこじゃなかろうか。私には、小麦粉など穀物の香りに似た印象があるが。


    2010/10/27 (山梨県)


    2010/10/27 (山梨県) ※カサの裏には無数の針が垂れ下がる。

    元祖・偽シメジ

    最近では、スーパーなどで売っている「シメジ」はブナシメジハタケシメジが多いが、最初にシメジの名前を語らされていたのは、このヒラタケだった。最近ではホンシメジの栽培ものなども出てきてしまって、ヒラタケの影が薄くなっている気もするが、いまだに「シメジ」と聞くと、あのグレーでマットなカサのイメージが思い浮かぶ人も多いのではないだろうか。
    ヒラタケ型」と言われるキノコの中では、ムキタケツキヨタケとともに大型でポピュラーな存在だが、私が出入りする森ではあまり見かけられなかった。ちょっと乾燥気味ではあるが、この写真の個体は、ムキタケが発生したブナの立ち枯れ木の裏側に出ていた。カンタケ(寒茸)と言われるくらいで、これから冬~春にかけて発生するはずだ。


    2010/10/27 (山梨県)


    2010/10/27 (山梨県)

    「家に帰って鍋の用意をしろ」とキノコが言う

    このムキタケも、シャリッと凍っていた。ブルンブルンと肉厚なムキタケを森の中で見つけると、たいてい秋も終盤にさしかかっていることもあり、今夜は鍋かなと単純に思ってしまう。別名、ヤケドタケ。そのゼラチン質が熱を逃がさず、気をつけないと口の中を火傷してしまうほど。鍋などにして、ハフハフ言いながら食べるのが美味しい。濃い味付けの料理ならば気にならないが、お吸い物の具などにムキタケを使う場合、皮の部分に少し苦味を感じる。その名のごとく、このキノコの皮は剥けやすいので水に浸けて洗ったり、湯がいたりしていると自然に皮が剥がれていく。おなじ倒木などに生えていることもある毒菌ツキヨタケとの間違いに、くれぐれもご注意を。


    2010/10/27 (山梨県)


    2010/10/27 (山梨県)

    アイスクリタケ

    下界でも真冬並みの寒さになった昨日、広葉樹の山に足を運んでみた。そこそこ成長したクリタケが、倒木の周辺を取り囲んでいたので、ニガクリタケと間違うような個体ではなかったが、一応、採取する前に儀式のように囓ってみた。「シャリッ」なんと、凍っているではないか。あたりの地面には霜柱ができており、ザックにぶらさげているミニ寒暖計の赤いラインは昼過ぎでも3~4℃までしか伸びていない。山の上では、もう、冬がすぐそこまで来ている。
    クリタケは成長すると、カサの周辺にある白い綿毛状の鱗片も消え、径10cm近くまでカサを広げるような個体もあって、一瞬、同定に戸惑うことがある。それにしても、最近、東京でクリタケと間違って販売されてしまったというニガクリタケの映像や画像をニュースなどで見るたびに、きっと全国のキノコ師たちが「なんで、こんな典型的なニガクリタケを・・・」と言ってるだろうなあ、と思ってしまう。


    2010/10/27 (山梨県) ※そこそこカサを開いたクリタケ。


    2010/10/14 (山梨県) ※これは白い鱗片が残っている典型的なクリタケ。


    2010/10/27 (山梨県) ※一応、ニガクリタケも掲載しておく。

    萌黄色のキノコ

    下の記事のルリハツタケ=「青いキノコ」つながりで、モエギタケである。こちらは、青というよりは緑のキノコではあるが。日本古来の色彩名である「萌黄色」というのは、吹いたばかりの木の芽のような黄緑色のことを指す。「萌葱色」という表記もあるが、こちらは芽を出したばかりのネギのような色で、もっと濃い緑色を指すようだ。

    モエギタケの緑色はヌメリの奥にあり、また、ハッキリした緑ではなく、薄緑から白の間でのムラとなるので、とても「曖昧」な印象がある。しかも、モエギタケが緑色を呈するのは幼菌~若い個体の時期で、大きく成長すると退色して白っぽくなり、緑をほとんど感じなくなる。この「おぼろげ」な感じが、日本古来の色彩世界イメージとリンクして、優美な印象さえ与える。
    モエギタケ科というのは、ナメコクリタケチャナメツムタケなどが属しているグループだ。モエギタケ属にまで絞ってもサケツバタケなどがあり、優秀な食菌が揃っている印象が強いが、当のモエギタケは「食べられるが・・・」という扱い。以前、成長したモエギタケを食した経験があるが、特に味もなく、歯ごたえも弱く、敢えて食べるほどのものではないという印象だった。


    2010/10/20 (富士山)
    Eat-a Fungi.
    東京在住。キノコ中級者。いちばん好きなキノコはチャナメツムタケ。自由業。

    Eat-a Fungi

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    *このブログ中でのキノコの同定には間違いがある可能性もあります。天然キノコを食される場合にはご自身の責任においてご判断ください。 *福島第一原子力発電所事故の影響により富士山をはじめとする各地で天然キノコの採取に対する自粛の要請が自治体から出されています。このサイトは皆さまに各地での天然キノコ採取を薦める主旨のものではありません。くれぐれも、各自、自己責任でのご判断を願います。