「納籠」と書いて「ノウカゴ」?

    下界ではいくらかのお湿りが続いたあとだったので、「山」を覗きに行ってみた。標高1100~1400mあたり。早朝、幹線道路も、川の上に架かる橋などは凍結しているところが多く、標準の装備での遠出はそろそろ心許ない。山の中は、日が当たる前の斜面は一面が霜で白くなっており、また、標高を上げるにつれてうっすらと雪が積もっている。下界で雨が降れば、こちらは降雪ということだろう。いつもなら2~3mほどで済む滑落も、5~6mに距離が伸びる。おかげでズボンの尻の部分は、水に浸けたようにビチャビチャになってしまった。
    倒木にキレイな茶色のキノコが連なっていたのでシイタケかと思って近づいてみると、どうやらアシグロタケのようだった。もともと硬いキノコだが、それがさらにカチカチに凍っている。山の上に茂っていた笹藪の中を、何かの獣が疾走していった。「もうこれ以上近づくな」と言われた気がして、斜面を降りた。
    今シーズンは、これで納籠。街中の公園や里山などを散策することはあるだろうが、雪が溶け始める来年の3月末頃までは、「山」でのキノコ採りはひと休みだ。気合いを入れて臨んだ今年は、いろいろと充実したシーズンだった。さて来シーズンは、どんな展開が待ち受けているだろうか。


    2010/11/19 (山梨県) ※肉厚だったが、たぶんアシグロタケ

    ついこないだまでは幻のキノコ

    このキノコが初めてスーパーマーケットの店頭に並んだのは、何年ほど前だったろうか。その頃の私は、まだキノコの世界に足を踏み入れる前で、このキノコが栽培できることに「驚き」を感じることはなかったのだが、もともと、食材としてのキノコには人一倍関心が高く、すぐにその「ヤマブシタケ」という聞き慣れない栽培キノコを購入して食してみた記憶がある。
    中国では古来から熊の手、フカヒレ、ナマコとともに四大珍味とされてきたらしく、また日本でも人工栽培に成功するまでは「幻のキノコ」という扱いだったようだ。この「幻の」などという言葉には眉唾ものが多いので、すべてを真に受けると世の中「幻」だらけになってしまいそうだが、私も今回初めて出会ったばかりなので実際のヤマブシタケの珍しさがどの程度なのかはピンと来ない。あの南方熊楠も「ヤマブシタケは幻のキノコである」と書いているらしく、まあ、そこそこ珍しいものなのだろう。
    山伏の袈裟についている丸い飾り(「梵天」というらしい)に形が似ているからヤマブシタケ。その長い針を垂れ下がらせる形が典型だが、朽木の水平上部などに発生したものは毛をはやした小動物のようだ。「ハリセンボン」「ウサギタケ」などの別名がつけられているのも納得。他に「ジョウゴタケ」という異名があるが、その由来が面白い。乾燥させたヤマブシタケは水分をたくさん吸収できるようになる。むかし、酒を飲めない人が酒宴に呼ばれた際、干したヤマブシタケに酒をしみ込ませ、飲んだフリをして凌いだという。酒をたくさん飲める=上戸(じょうご)という意味から、ジョウゴタケとなったそうだ。
    料理に出せば、まず見た目の不思議さで眼を引きつける。苦みにつながるような旨味があり、お吸い物の実などにすると美味しい。


    2010/11/11 (山梨県) ※重力によって針が垂れ下がる典型タイプ。


    2010/11/11 (山梨県) ※この個体は朽木の空洞の中に発生していた。

    晴天の旅行者

    上の写真はツチグリ。下のはヒナツチガキ(だと思う)。この手のキノコの仲間は、キノコシーズンが終わる頃、林道の脇などに、胞子を撒いたあとの「残骸」が転がっているのを見つけるというイメージがある。実際には、夏あたりから頑張って繁殖体勢に入っているはずなのだが、他の優良キノコが生えているシーズンには人間の意識が向かないということなのだろう。
    ツチグリは、以前に、幼菌=「まめだんご」を初体験の珍味として取りあげたことがあるが、成菌もなかなか不思議なキャラクターの持ち主だ。星形でひび割れ模様の外皮など、その造形には異星人的な趣さえあるが、欧米では「地上の星」「星形の湿度計」などとも呼ばれるらしい。湿度の変化によって外皮を開閉するので「湿度計」と言われるのだが、空気が乾燥している時には外皮を閉じて丸くなり、風に吹かれてコロコロと転がって移動するという。その行動?から「晴天の旅行者」との異名も。
    まだ果実が膨らむ前の「柿の実+ヘタ」にそっくりな「ツチガキ」には複数の種類があるようだが、ツチグリ科(ニセショウロ目)とは別のヒメツチグリ科(ホコリタケ目)に分類されているので、ツチグリとは行動パターンも異なるのだろうか。


    2010/10/27 (富士山)


    2010/11/6 (神奈川郊外)

    冬キノコのはじまり

    季節的にはちょっと早いかなとは思いつつ、まだ見たことのない天然ナメコを探しに、とある渓谷沿いを歩いてみたのだが、川岸の倒木に生えていたのはエノキタケだった。地方によってはエノキタケのことをナメコと呼ぶところもあるくらいで、どちらも、日本人には古くから馴染みのあるヌメリ系の食菌だ。エノキタケは、今から冬を越して来春4月あたりまで広葉樹の切株や倒木などに発生する冬キノコである。雪が積もっても生き続ける菌で、ユキノシタという地方名もある。小型のものが多く、ヌメリもあるので処理が面倒ではあるが、天然のエノキタケは非常に美味しく、我が家でも人気のある天然キノコの一つだ。
    時には10cm近くまでカサを広げているような巨大なエノキタケがあるが、その大きさだけに限らず、姿形や色合いがこれほどまでに栽培種と異なるキノコも珍しい。栽培種はエノキタケの「もやし」みたいなもので、日を当てないと、カサを広げずにどんどん背だけが伸びていくらしい。栽培種はあの柄の歯ごたえが美味しいが、天然のエノキタケの主役はカサである。天然種のカサには旨みが凝縮されており、喉をツルンッと滑ってゆく強すぎないヌメリが絶妙だ。個人的なお薦め料理は、茶碗蒸しと雑炊。エノキタケは都内の公園などでも発生するようなので、これからの冬の季節、散歩がてら探してみてはいかがだろうか。


    2010/11/3 (山梨県)


    2010/11/3 (山梨県) ※渓谷沿いの立ち枯れ木に生えていた径5~6cmほどの個体。


    2010/10/14 (山梨県) ※日がよく当たる場所に生えているエノキタケは焦げ茶色になる。

    ヤギタケは何故かマイナー?

    このキノコも、富士山では10月後半あたりからのターゲットとして狙いに行くのだが、いまだに確固たるシロが持てずにいる。ヤギタケ。3年ほど前に、富士山のとある森の中でこのキノコの群生に出会ったことがあるが、それ以降は、毎年、単発でしか出会えていない。
    写真ではどうしても茶色っぽく見えてしまう。実際にはグレー~黒のキノコだ。幼菌の頃には、カサや柄の黒とヒダの白とのコントラストがクッキリしていて非常に美しい。シャキシャキとした歯触りがあり、味や匂いにもクセがなく、とても美味しいキノコだと思うのだが、キノコ本などではあまりメジャーな扱いを受けていない気がする。時期的にもキノコシーズンの終わりの頃だし、量的にもチャナメツムタケほどには期待できないし、森の中でも見つけにくい地味な色だしと、人間の眼をうまくかいくぐっているからだろうか。
    ときどき、ほとんどヤギタケと同じ見映えでも、よく見るとヒダが肉色をしているキノコに出会う。ウスアカヒダタケと言う食菌だそうだ。


    2010/10/27 (山梨県)


    2010/10/27 (山梨県) ※このようにジョウゴ型になる成菌と、下の写真のように平らに開く成菌とがある。


    2007/10/24 (富士山) ※むかし見たヤギタケの群生の一部。

    コウタケ滑り込み

    今シーズン、出会いたいと思っていた菌の一つにコウタケがあった。でも、コウタケが出ると言われている広葉樹の山に何度か通ってはみたのだが、スカ続き。山の中では、もう季節が冬に移行しつつあり、これは来シーズンに持ち越しかと諦め気味だった。しかし、なんとなく気になって、もう一度だけその山を覗いてみたところ、やっとのことで出会うことができた。滑り込みセーフだったようだ。
    コウタケが出ると言われている山にコウタケを探しに行っているので、これがコウタケだと同定できたが、いきなりこの個体に出会ったとしたら、しばらくは何のキノコだかわからなかったかも知れない。先週から火曜日の朝まで降り続いていた雨で鱗片が流されたのか、カサの表面がツルッとしていて、全体の形も複雑に屈曲しているなんとも不細工なコウタケだ。しかし、「醤油のような」と言われる香りをすでに放っており、裏面は剛毛と言えるような長い針をフサフサと生やしていた。以前、富士山で見つけたシシタケよりも、格段に香りが濃厚だ。鎧のような立派なコウタケの写真をアップするイメージでいたので、少し拍子抜けの感もあるが、それは来シーズンに期待することにしよう。
    「香りを強くするなら乾燥させて、歯ごたえを活かすならフレッシュで」と、どこかに書いてあったが、とりあえずその間を狙い、茹でてアク抜きしたあと、一日ほどザルに上げておいてからコウタケご飯を作ってみる予定だ。


    2010/11/3 (山梨県)


    2010/11/3 (山梨県) ※全体が屈曲していて、陥没の状態がよくわからない。


    カサの裏の針は、かなり長めだ。
    Eat-a Fungi.
    東京在住。キノコ中級者。いちばん好きなキノコはチャナメツムタケ。自由業。

    Eat-a Fungi

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    *このブログ中でのキノコの同定には間違いがある可能性もあります。天然キノコを食される場合にはご自身の責任においてご判断ください。 *福島第一原子力発電所事故の影響により富士山をはじめとする各地で天然キノコの採取に対する自粛の要請が自治体から出されています。このサイトは皆さまに各地での天然キノコ採取を薦める主旨のものではありません。くれぐれも、各自、自己責任でのご判断を願います。